ある雪の降る新年の夜

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あるよく晴れた平日の午後

思い思いのタイミングで

いつもの場所に

いつもの風景

 


予定外の予定と想定内の予定を正午過ぎからこなしたつもりで家路につき、二日ぶんの作り置きされたおかずにあり着いたのが午前零時前。そこからだらだらと夜食のような時間の遅い夕食を食べながらパソコンをいじり、ふと外をみると雪がしんしんと降っていた。ある小さな思いを胸に秘め立ち上がり、シャワーを浴びに行くのだ。ベッドが新調されてから備え付けの収納から下着や服をあらかじめ取り出しておくという最近身に付いた数少ない習慣をほんのわずかに得意げに思いながら服を脱ぎ、これまた二日ぶりに頭部を洗い、順に顔、体を洗い風呂場を出る。着替えてから小銭を手に取りそっと外に出る。思いの外、都会にしては積もっているとも言えない程度には積もっていた。通りには誰もいなかった。時刻は午前三時をまわっていた。駐車場の入り口の坂の道の上の雪にはこれまた当然ながら足跡一つない美しい平べったい真っ白。二つ、背中合わせになる自動販売機の裏側の遠い側の方にまわり、小銭を入れる。すると百円玉だけなぜか出てくる。よく見るとその銀貨は、どこかゲーム施設かなにかのゲーム用コインだった。じぶんでなければ諦めたくなるのではないかと思うほどに身体にはりつく寒さを通り過ぎ、急いで家の中へ戻り、再び銀貨を手に外へ。途中家の屋根の下で立ち止まって顔を上げてみた。雪は、風に揺られ、その都会の雪の、大きな、湿気を含んだその大きな雪の小さな塊たちは、幼少期から青年期までのこれまでの私自身の様々な思い出を運んでくれるようなものだと感じた。舞い踊り、風に揺られる雪は、思い出を思いの外幻想的に、その片鱗を私の想像の世界にちらつかせては消えさせた。無事に自動販売機との格闘を終えてマンションの門を過ぎ階段を上がりながら浮かんだ思考の内容は、この世は夢のようだ、この一連の、呆れるほどくだらないこの雪の夜の世界の片隅での出来事は、明らかに現実であり、そして夢のような一幕であったのだ。そう思い、筆をとった、という名の、親指をスマートフォンの液晶に走らせた。瞼が重い。無事に買った炭酸飲料を一気に飲み干しながら、こんな回想もまたしてみたいものだと、私は私に言い聞かせた。